失くしたもの /木立 悟
肩に触れていたなだらかな重さが
消えていることにふと気づくとき
部屋のなかを見わたす視線は
ほんの少しだけ傾いている
今日も夕空を見忘れて
蒼い窓を通りすぎ
破りとられた網戸のような
さまざまな大きさの花を数える
部屋という部屋 入口という入口が
いつからこんなに暗いのか
明かりを点けても変わらない
明かりを消しても変わらない
だんだんはっきり見えてくる
寒さが幾つも貼りついている
溶けてゆく虹色の輪をくぐると
部屋も入口もひとつしかなかった
眠りは再び消えてゆく
響きだけが残される
夜の笑みのやわらかさ
重さを失くした指に震える
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