遠幻の夢/栗栖真理亜
女性がすれ違いざまに美しいほどの微笑を顔に称えて囁いた。
「福が来るよ」
僕は驚いて振り返ったが、女性の姿はもう何処にも見当たらなかった。
僕はあの夢がなんだったのか未だに良くは分からない。もちろんあの女性と中年の男性が何者なのかも。
しかしおかげで僕はあの後、提出した論文が認められるなど運続きだったのは言うまでもない。
(福が来るよ)
僕の心の隅々にまで染み渡るような言葉。
僕は一生涯忘れないだろう、その言葉を。
優しげな言葉は今も僕の心に焼きつき、僕を支え続けて止まない。 了
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