ペーパーホーム/yo-yo
 

このところ祖母はほとんど言葉を失って
もう私たちに通じあう言葉がない
猫のようによく眠る祖母は
そうやってすこしずつ死んでゆくのだろう
私にはもう涙も残っていないから
しずかに死ねる年寄りはしあわせだと思うことにする
死ぬことも生きることも
私は若いから苦しい

弟のぬけ殻の穴を
私は毎日すこしずつ広げてゆく
壁穴のなかの青い空
切り取られた空は水たまりに似ている
水たまりは湖になり
やがて海になるかもしれない
深い茫洋のそとへ
私は紙の家をすててダイブする
あかい血があおく染まり

そのとき私は
初めての潮になる




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