THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
 
さいに実感することが、すぐにはできなかったらしい。それが実感できたのは、先に述べたように、別の友人に気づかされてのこと、『マールボロ。』をつくった後、しばらくしてからのことであったという。


 しかし、彼の笑顔はこの世にふたつとない笑顔だ。その笑顔を向けられると、人生で出くわすありとあらゆる不幸をそこに見るような気がする。ところが顔に浮かんだその不幸を、彼はあっという間に順序よく並べ替えてしまう。それを見ていると、今度は急に「ああそうか、心配することはなかったんだ」と感じるのだ。 だから彼と話をするのは楽しい。その笑顔をしょっちゅう浮かべて、そのたびに「ああそうか、心配することはなかった
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