THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
 
ことだ。いつものように、ぼくの体験したことや、思いついたことを詩人に話していると、詩人が、ぼくのことを詩にしようと言い出したのである。それが「陽の埋葬」だった。それは、ぼくの体験をもとに、詩人がつくり上げたものだった。ぼくはけっして、ぼく自身になったことがなかった。ぼくはいつも他人になってばかりいた。詩人はそれを見通して、ぼくに対して、もうひとりのわたしよ、と呼びかけていたのだろう。詩人も、ぼくと同じ体質であった。ぼくと詩人が出会ったのは偶然の出来事だったのだろうか。おそらく、偶然の出来事だったのだろう。あらゆることが人を変える。あらゆることが意味を変える。その変化からまぬがれることはできない。出来事がぼくを変える。出来事がぼくをつくる。ぼくというのも、一つの出来事だ。ぼくが偶然を避けても、偶然は、ぼくのことを避けてはくれない。
 一つの偶然が、川下からこちらに向かってやってきた。

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