初夏/王
彼女は知らない国へ行きたがった
そこは常夏でこんな梅雨などなく
フルーツを食べて踊るんだそうだ
だけど僕は太陽の下
彼女が小麦色に輝きながら
踊る姿が想像できない
しばらく彼女はその世界に引き込まれたのか
沈黙し遠くを見るようだったけど
急に「少し寒いわ」と身を縮めたので
僕は窓を閉めた
外は雨続きで
じめじめと部屋をくもらせていて
僕は彼女に布団をかけると
ジャケットをぬいで椅子にかけた
という出来事達をやっと整理して
ノートパソコンの電源を切った
月末に部屋を引き払うことになっているので
もうがらんとしている
記憶というものは
置いてはいけ
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