谷川俊太郎さんが亡くなられた(2024.11.19)/草野春心
 

 谷川俊太郎さんが亡くなられた
 十一月十三日二十二時〇五分 老衰のため杉並区内の病院で

 谷川俊太郎さんが亡くなられた
 この一文はずいぶんと不思議だ
 生や死を超えた感じのある方だったから(お会いしたことはない)
 散文的なその事実は 詩人の魂への冒涜のようにさえ感じられる
 けれども考えるまでもなく
 僕たちが読んできた素晴らしい詩の一つ一つが
 かれがほかでもないこの地上で生きたことの証だ

  棺を開いて 透明なからだで
  死した自らを眺めながら
  あなたは詩を書き始める
  けれども 舌をぺろりと出して戯けて
  ほどなく棺に収まりなおす

 死んでから書くあなたのはじめての詩に
 興味があるが
 もうそれはとっくの昔に書かれている気がする
 葬儀は 終わっているらしい


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