定めの夜/ホロウ・シカエルボク
突然過ぎてまるで本当の話に聞こえなかった、明日から俺はどこで食えばいいんだい、と俺は冗談めかして言った、あんたは信じないかもしれないけれど、と、マスターは前置きしてこう言った、「十年もウチに毎日通って食べてくれた客なんてあんただけなんだよ」それ本当?と俺は訊いた、マスターは真剣に頷いた、それからいつもより小さな声で、いままでありがとな、と付け足した、寂しくなるな、と俺は答えた、最後に俺たちは握手をして別れた、雨の気配はまったく無くなっていて、冷たく、強い風がうらぶれた通りを狼のように駆け抜けるばかりだった、ひとつげっぷをして、家までのんびり歩いて帰った、もう二度とその道を辿ることは無いのだと気付いたのは、ベッドに横になってからだった。
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