館長の話/たもつ
 


水族館から
水族が溢れ出した
水族は移動を続け
乾燥地帯にも
幾ばくかの水分をもたらし
貧弱な草木を発芽させた

水族館の後には
館と館長だけが残った
館長の手の甲にはいつしか
プロペラが生えた
プロペラは空を飛ぶには
あまりに小さすぎたけれど
回せばほんの少し
指先が涼しくなった

長い年月が経つうちに
何の館長だったのか
すっかり忘れてしまった
それでも思い出そうとすると
淡い幸福感に包まれるので
幸せだったのだ、と思った


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