年平均 6本。/田中宏輔
ぼくが20代の終わりくらいのときやったかな
付き合ってた恋人のヒロくんのお父さんが弁護士で
労災関係の件で、それは印刷所の話で
「年平均 6本」とか言っていた
紙を裁断するときに指が切断されたり
機械に手が巻き込まれて
指がつぶれたりする数のことだけど
ヒロくんは
クマのプーさんみたいに太っていて
まだ二十歳だったけど
年上のぼくのことを
名前を呼び捨てにしていて
歩いているときにも
ぼくのお尻をどついたり
ひねったり
あと
北大路ビブレの下の地下鉄で別れるときにも
人前でも平気で
キスするように言ったり
じっさいしてて
駅員に目を丸くされたりして
かなり
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