「詩人キラー」新発売!/田中宏輔
台の引き戸から
消音エアゾールとマスクを取り出し
部屋に戻ってマスクを付けると
朗読している詩人たちの顔に振り向けて
プシューッとした。
すると、詩人たちの声が消えた。
詩人たちはただ口をパクパクするだけで
声がまったく聞こえなくなった。
明かりを消してふたたび床に就いた。
しかし、とても繊細なこころの持ち主であるこの詩人は
口をパクパクさせている詩人たちのことが気になって
気になってすこしも眠ることができなかった。
明日こそは買ってこよう。
ぜったい買ってこよう。
詩人キラーって
声といっしょに詩人たちの姿も消えるんだっけ。
たしかそうだったと思うけど
でも、送り主の詩人たちまで退治してくれるってわけじゃないから
詩人たちが送られてくることまではとめられないんだよね。
とかとか、そんなことを考えながら
この詩人は、きょうも眠れぬ一夜を過ごすのであった。
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