もうね、あなたね、現実の方が、あなたから逃げていくっていうのよ。/田中宏輔
「写真はあるの?」
「あるよ。」
「こんど見せて。」
「いいよ。
いっしょに詩の朗読会に行ったとき
ちょっと、ぼくが哲っちゃんから離れて飲み物を頼んでたら
知ってる詩人の女の子が
いっしょにきたひと
あつすけさんの恋人ですかってきくものだから
そだよっていったら
カッコいい
って言ってたよ。
まっ
カッコよかったけどね。」
「ふううん。」
「でもね。
会うたびに
カッコよさってなくなっていっちゃうんだよね。
遠距離恋愛でさ。
ぼくが和歌山のごぼうに行ったり
哲っちゃんが京都の北山に来て
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