もうね、あなたね、現実の方が、あなたから逃げていくっていうのよ。/田中宏輔
 

「書いたよ。
 で
 いま
 お風呂場では
 「絵合」のつぎの「松風」
 読んでるんだけど
 源氏がさ
 明石の姫君を京都に呼ぼうとして
 家、建てさせてるのね。
 これまで付き合った女たちを
 みんな、自分のそばに置いておきたいと思って。」
「最低のやつですね。」
湊くんが笑った。
「そだよね。
 ま
 置きたい気持ち
 わからないこともないけどね。
 でも
 ふつうは
 そんな余裕ないからね。」
イスラム圏の国じゃ、
たくさん嫁さんを持てるんだろうけどね。
いや
日本でも
お金があったり

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