数式の庭。原型その2/田中宏輔
はなかった。
ものはなかったので、それをそのまま保存しておくことはできなかった。
詩人は、音声によって、その言葉を聞かされたのであった。
青年は、言葉によって、そして、そのとき言葉を発した気持ちを
その表情に、そのからだのつくりだす雰囲気によって伝えたであろう。
伝えようとする意志がどこまで意識的かどうかにはかかわらず
きっと、その表情やからだぜんたいから醸し出されるニュアンスは伝わったであろう。
そして、その言葉はその青年の呼吸と同じように吐き出され
詩人の呼吸と同じように吸いこまれたのであろう。
呼吸。
そうだ、呼吸は呼気と吸気からなる一連の運動である。
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