帰るべき家/パンジーの切先(ハツ)
 


 ああ、蟻、と聞こえて、わたしはぎょっとして、自分の膝を見る。少しむず痒いかんじがした。けれどそこに蟻はいなくて、あなたが指差したのは、わたしの分のサンドイッチだった。小さくはない蟻が、パン屑をせなかに背負いつつ、サンドイッチの上を歩いていた。わたしはサンドイッチを持ち上げて、パッパと手で払う動作をする。蟻は転げ落ちて、布のうえをさまよったあと、草の中へもぐっていった。

 どうしてあなたは、わたしのために蟻をゆびで払い落としてくれないのか、
 
 いくつも敷いてきたレジャーシートが、風に舞い上がりつづけていて、うるさい。あなたの声が聞こえない。風を内側にはらんだ、(ビニール)た
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