不器用/かのこ
 
いつものように
なんでもない顔をして
駅で電車を待って
頭ん中だけで
僕は僕を撲(なぐ)っていたんです。

ふとしたことで
泣き出しそうになって
そんな自分がどうしようもなく
嫌、で
唇を噛み切ってしまいたいと考えてた。

人込みの中で
アイデンティティも喪失(な)くしてしまうこと。
大嫌いなすべてと生きていく
窪みのある愛。
蟻の一匹殺すなんてことも
目を見開いてやってのけれるよ。

いつものように
なんでもない顔をして
今日生きる自分を用いて
愛す、自分に
僕は僕を撲っていたんです。

いつからか、呼吸も不器用になって
それでも、自分なりに一生懸命、吸って、吐いて、吸って吐いて吸ってはいて
誰にも言えずに、ただ立ち尽くして、いたんです。
そうして、這ってでも前に進める強さが
自分にもあったら、と思ったんです。
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