数式の庭。─前篇─/田中宏輔
花たちを眺めていると
花たちの顔が
わたしの隣を見ているような気がしたので
横を見ると
十年ほどもむかしのわたしだろうか。
深刻そうな表情をして花のほうを見ていた。
その奥にあるわたしの部屋では
高校生ぐらいのわたしだろうか
受験参考書か問題集と取り組んでいるのだろう
せわしそうにノートのうえにペンを走らせていた。
そのうち、つぎつぎと
さまざまな齢のわたしの姿が
庭を取り囲んでいった。
数も数えられなくなった。
いったい、このわたしはいつの齢のわたしなのかと
ふと思った。
無数のわたしのなかの
ひとりのわたしであるのだろうけ
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