数式の庭。─前篇─/田中宏輔
十分にうつくしい。
そして
それ自身は
それほどうつくしくはないのだけれど
こんな数式の花も咲いている。
それ自身のうつくしさは
取るに足らないようなものなのだが
それが咲いているために
ほかの数式の花が
ことのほか、うつくしく見えるのだ。
その花の貧しいうつくしさによって
そのうつくしさの貧しさによって
他の花の豊かなうつくしさに
うつくしさの豊かさに気づかされるのだ。
しかし、そういった花に
貧しいという言葉を与えたのは
間違いだったのかもしれない。
ときには、間違いも
またうつくしいものだけれど。
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