影か揚羽か/ただのみきや
 
すでになく
人々は昔からあるそれを抽象的表現のなにか
あるいは抽象的なものを表すための具象を用いた比喩ではないかと思い始めていた
今日も一人の画家志望の学生がそれをスケッチしていたが
そこにないものをも描いて持ち帰っていった
家に帰ってスケッチブックを開くとそれを見た画家の恋人は一つの詩を書き始めた
詩の中で骨と剣は透けた鍵 白い魚の骨のように澄んだ女たちの涙を遡上した
やがて山の頂で岩の裂け目をこじ開けると男たちの激しい憎しみの眼差しで焼かれ
すべてが灰になった するとそこから黒い手が一瞬生えて その手はすぐに砕け
そこから一羽のカラスアゲハが飛び立った
太陽の満面の笑みから
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