犬の影/まーつん
行った
扉を開けてみると、
ぼろぼろになった思い出が
私に飛びついてきた
尾を高く振り、身体を摺り寄せ、頬を舐めてくる
その瞳の奥を覗けば
かつての私自身の苦い記憶が
生き生きと踊っている
私は目をそらし、そっと抱き上げ
これが最後と車に乗せて、遠い海に向かった
思い出は助手席に座り、
少し開けた窓から吹き込む風に興奮して
ハッハッと荒い息をし、舌を出した
高く切り立つ崖の上で、私たちは車を降りた
空を覆う厚い雲が、風に流され、南を目指していた
砂利や小石が、靴底の下で擦れ合った
思い出は、私の周りをグルグルと回りながら
時折愛くるしい目で見上
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