ハイヒール/幽霊
 
 道行き。私は尋常に歩いていた。特に変わった道では無い。普通の住宅街の道だった。朝であった。
 背後から音がした。扉(ひら)く音に続いて、それはアスファルトを打ち鳴らすハイヒールの音に違いなかった。音(ハイヒール)だ。女(ハイヒール)だ。私はどんな女の人か見てみたくなった。目を使いたくなった。振り返ろうとして、思い止まった。見ないでおこうと思った。
 その烈しく打ち鳴らされる音。女の腰の揺れを私に印象させた。女の髪の揺れを私に印象させた。女の胸の揺れを私に印象させた。女は烈しく揺れていた。性(ほのお)のように。
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