昏迷/岡部淳太郎
夏が終ろうとしている時
世界が昏くなりたがっているのを感じる
私は台風一過の荒れた林道を歩きながら
その名残りの水のしたたりを見る
一滴の雨の子供のなかに
自然のすべての理が凝縮されているのがわかる
そのぽつりという音を内耳でとらえると
心はその一音にひたされ
空をすりぬけて重力から羽搏いて
もっと広い場所へ出て行こうとするのがわかる
それでも世界は季節の一巡りによって昏くなり
迷いながらもその方へと抗いようもなく向かわされてしまう
私もまた 昏く迷っているのだとひとりごち
また落ちてくる雨の子供を手に享ける
それは世界を洗い流したために汚れていて
私の昏く迷った心によく似ている
またしても南洋で 台風が発生したらしい
世界には洗い流されるための汚れがまだあって
そのために 人も時代も 昏迷して
予言のような時間を用意してしまうが
大丈夫だ
私はここにいて
運命のような季節の一巡りを受け入れる
そして 昏く迷いながらも
自らが雨の子供として
時のうえに落ちようとするのだ
(2024年8月)
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