わたしを返して/涙(ルイ)
なぜだかいっつも どんより曇ってばかりいた
あの夏のことですか
受験勉強のさながら 部屋を掃除して
洗濯物を干して 簡単だけど昼ごはんの支度
だけども母親はそんなわたしに
見えるところしか掃除しないだの
洗濯物はシワを伸ばしていないだの
文句しか云ってこなかった
あの夏のことですか
バイトで帰りが深夜をまわっても
特になにも気にもされなかった
それどころか 夕飯食べそこねたと云っても
なにもないからと ご飯の支度すら拒否られた
流しには兄には食べさせたであろう食器たちが
物心ついたときからそうだったけれど
どこにもぶつけようのない空虚な気持ちを噛みしめた
あの夏のことですか
戻りたい夏など どこにもありはしません
そんな夏 戻してくれなくたっていいから
返してくれませんか?
あなたたちが奪い取っていった
あなたたちが毟り取っていった
わたしの一切を
返してください
戻る 編 削 Point(5)