ベランダ/九十九空間
不登校になってから
しばらくの間、
洗濯物を干すことだけが
僕に与えられた役割で
ベランダだけが
世界との接触点だった
その頃、住んでいたのは
閑静な住宅地の古い一軒家
とはいえ借家で
ベランダに佇んでいると
ときどき車が通ったり
幼児とお母さんが
楽しそうに歩いているのが
見えたりした
不登校になってから
しばらくの間、
水槽の熱帯魚が
龍になって僕を乗せ
空を飛びまわる
そんな妄想をしては
そのたびに
龍も僕も
電線に絡まってしまうのだった
その頃、住んでいたのは
閑静な住宅地の古い一軒家
とはいえ借家で
ベランダから見た青空
手をのばして触れた雨、風、
一瞬の雷光がすべて
今でも心象風景の
基調になっている
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