キクチさん/れつら
 

酒を飲むと腹を出して寝る癖があった
眠る前には膝をたたみ 突き出してまるまった
それはキクチさんが紫外線から身を守るためであったといわれる
そのためキクチさんの腹は総じて白い
白い腹を、オリーブをつまんだ指で、腹の下の傷をさわっていた
軒に叩き付ける無数のキクチさんが雪にかわるころ
風邪をひくといけないので毛布を掛けた
かつて多くのものが
キクチさんになろうとしたと聞く
近頃ではそう珍しくもないのよ とキクチさんは言っていたが
それはかつて キクチさんであろうとしたことの難しさを逆説的に証明する
タクシーをひらって帰る後部座席で
運転手の後頭部に貼られた名札
その貼り
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