想い出/レタス
 
あれは小学2年の夏休みのことだった
隣の家の姉さまは
白地に花菖蒲の浴衣を纏って
細い躰を座敷に横たえ
静かに扇風機のぬるい風にあたっていた
ぼくは庭にあったシーソーに乗りたくて
姉さまの名前を呼んでみた
イサちゃん どうしたの…
あのね シーソーに乗りたいんだ
姉さまは気だるそうにその躰を起こし
長い黒髪を整えると
透明なコップで薬を飲み
ちょっと待っててね と言った
ふぅ… 軽い吐息をつき
姉さまはゆらゆらと立ち上がり
縁側に揃えられた紅い鼻緒の下駄を履いた
だいじょうぶ?
大丈夫よ…
姉さまは軽く微笑んだ
その顔はほの白く
薄い唇だけが桃色だった

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