ヴァイオリニスト・鈴虫/本田憲嵩
 
鈴虫よ、
そのささやかに響きわたる、
きわめて細い、
澄んだ高音のさえずり、
そのガラス質のように薄い二枚の羽で、
涼しい夜をさらに涼しく研ぎ澄してゆくもの、
君は、まるでまだまだ音を出すだけでも精一杯なヴァイオリンの初心者のように、
そのあまりメロディーとは言いがたい、
とても単調なメロディーをいつも繰りかえしている、
ぼくは、草葉の陰に隠れていつも鳴いている、姿の見えない君のことを想像するとき、
君はもしかしたら本当は、
いつも透明なガラス製のミニチュアのようなヴァイオリンを、
とても下手くそに弾いている、
ちいさななちいさなヴァイオリニスト、なのではないか?
と、創造する時がある、
ああ、ヴァイオリニスト・鈴虫よ、
そのとても下手くそな弦楽器の、その心地よき高音の名手よ、


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