母のよこぐるま/そらの珊瑚
ことに
よく許可が出たなと思ったが
きっと母がよこぐるまをおしたんだと思った
うちはすぐそこだから自分たちではこびます、とかなんとか
目に浮かぶ
母は自分がこうと思ったら曲げない人で
かつてわたしはなんどもそれに抵抗し
怒ったりしたものの
そのよこぐるまを押し返すことは
ついぞ出来なかった
惨敗するたびわたしはどこかをすり減らした
父が生まれ育ったふるさとの道を
母のよこぐるまでがらがらと運ばれていく
ごつごつしたアスファルトの上を行くには
たよりなさげなキャスターが
肉体だけになった老人を運ぶ
パン屋を過ぎて 運ぶ
花屋の角を曲がる 運ぶ
お天気は晴れ 運ぶ
通りすがった人は不思議そうに見ただろうか
空に鳥は飛んでいただろうか
最終目的地まで さんぷん
おかえり
かなしいはずなのに目から水滴は出なかった
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