雪の幻/リリー
 
 午後の熱にうだる 
 れんが道
 口から舌を出したまま
 首をうなだれる小さな犬を抱く
 中年の女性とすれ違う

 植え込みには等間隔で咲く
 枯れ色になったミニヒマワリ
 まちは夢見のわるくなるような
 けだるさに追いこまれて
 
 湖岸道路の、車の走行音
 わき道へ逸れる角で立ちどまり見上る
 ビルの傍のサルスベリ
 高く伸びた枝葉の先を電線へひっかけて
 咲き誇る花は、薄く積もる雪の様

 心を小さくたたく
 今となれば、心地よい冷たさの記憶
 浄らかな未来を描いていた遠い夏、
 海沿いのホテルの茶房ラウンジで友人と見た
 ガーデンウエディング
 カリヨンベルを鳴らす二人の
 長いドレスの裾が紺碧の大洋に映えて
 まぶしかった

 翌年、友人から届いた婚礼の招待状
 それを受け取った時
 ラプソディ・イン・ブルーの中の
 すきとおった音と音の間の短い沈黙が、
 こわくて思わず叫び出したあたし

 街をあるきながら
 叶うことのなかった夢は
 何処でもない空で溶けることなく
 浮遊している

 

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