空を買いに/由比良 倖
が売ってあった。苔むして戒名も読み取れなくなった墓石が、焚書前の本の山のように積まれている。人は死んだら、本になる。ほぼ駄作の、それらの本たちを、僕は軽蔑しているけれど、中には詩的な本もある。極々少数ではあるし、相当珍しいことではあるけれど、誰かの死が、誰かの生の中で生き続けることもある。
金閣寺は夕暮れを反射して、美しい音楽の休止符のように、永遠に引き延ばされた一瞬の緊張に、じっと耐えているような、目を逸らしがたいオレンジ色に光っていた。
「いらっしゃいませ」
と、高くもなく低くもなく、男かも女かも分からない声がしたので振り返ると、ヨンシーが立っていた。シガー・ロスのヴォーカルで、僕は彼
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)