由比寺の刀/atsuchan69
り取られた両眼の穴で穢れた血を吸った細く長い刀を見るともなしに見上げた。
「ああ、八百万神、すなわち神よ! わが刀をもって佐川義久を討ち、雷のような轟きをもってその従者をも打ち殺そう」
すると刀はまぶしい光を放ち、そのつよく神々しい光の中には、怒りも憎しみも、そして殺戮への迷いさえ微塵もなかった。ただ激しい音と光が消えると、そこには義人を踏みつけ民を支配した義久と黒く焼けた従者のむくろだけが残った。やがて一陣の風が吹き、あたり一面には靄のような煙と獣じみた嫌な匂いが漂った。刀は、矢を受けた身体とともに、抜き身のまま焦げた土の上に置かれていた。その場に駆けつけたおゆいは、両眼をえぐりとられた男の亡骸に寄り添い、声を漏らして泣いた。
景時の刀は、今もこの地の尼寺に納められている。
◇士師記13章〜16章からのオマージュ。
(一部モノローグ等に、本文からのサンプリングがあります)
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