大したことのない話/鏡文志
夏の浜辺で、少年と父親が対話しました。
父親:俺は若い時、驕り高ぶっていた。自分が大した野郎だと、思い込んでいたんだ。働いて働いて、やっと分かった。俺は、チンケな男。人の一生は長い。その答えに辿り着くまで、何十年かかった。一所懸命一所懸命生きて、やっと大したことのない男になれたんだ。
少年:本当に? 大したことのない男になんか、なりたくないよ!
父親:なに言ってるんだ。出る杭は打たれる。大きな岩が波に打たれてまあるい小石になるように、人間の一生は、鋭く尖ったナイフが、まあるくなるまでの、旅だよ。
少年:若気の至りが、世の中を突き動かすんだよ。
父親:昔は、大人になってからじゃないと、モノを言う権利が与えられなかったんだ。世の中も変わったよな。問題者や不良、大したことある人間は叩かれ、苛められ、転げ回ってやっと人に首を垂れることができるようになるんだ。人間の一生は、大したことある奴から、大したことのない人間になるまでの、旅なんだよ。
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