夏のサイレン/soft_machine
乾いた金属音に、たるみ切った意識が醒めても
しぼんだ脳は白球の行方を捉えられない
職人が切換える幾つもの映像が
先へ、先へと白球を追いやるから
僕は冷房の檻に這いつくばったまま
コピー紙の裏で言葉と戯れる
もう間もなく、すべて終わらせてしまいそうな光に焼かれ
ゆらめくマウンド上の陰画が、ひとつ首を振り
スパイクされ歪んだ四角をなぞり駆け抜ける
澄み切った空は観客席に切り取られた穴のようで
粒の揃ったエールを、あの過ぎた日
背高泡立草が広がる原野に響かせる
回転する表裏の境界が一分間こっきりだと気づいた僕らは
何を突きつけられようと思い思いに楽しむことに決めた
干からびたオリーブを転がすテーブルの向こう
グラスに氷を放りこんだり
蛙の求愛に耳を傾けたり
気に入らない奴を殴りつけたり
入ったと思った落球が、何度見返しても
スローにすると切れているのはどうしてだろう
最後のひとりになってしまった彼の
悔しなみだが枯れる理由を待たずに
今年のサイレンも夏の幕を閉じる
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