東の海辺から/嘉野千尋
 




  わたしの足元から伸びた影だけが、
  ずっと寄り添っていたわ、あの夏の日も
  夜になって、またひとりぼっちになったけれど
  それでもかまわなかったの
  悲しいことなんて、本当は何ひとつなかった
  悲しいのかもしれないと、ぼんやり思っただけで
  潮が満ちて、わたしの膝下を濡らしたけれど
  わたしを誘いはしなかった
  ただわたしは東の海辺で
  あなたのことを想っていたの



  わたしは波の数をかぞえていたわ
  悲しいことなんて何ひとつなかった
  あなたがそばにいないことすら
  悲しいことではなかったの
  ただ寂しいとぼんやり想ったわ
  あぁ、また
  東の海辺から
  あなたのいない一日が始まるのね 





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