微熱/アラガイs
あの日みた映画の話しは覚えていない
たぶん外は小雨が降っていた
隣の席に座ったコート姿の貴女は
しっとりと肩まで伸びた黒い髪に
その日風邪をこじらせていた僕のあたまに
朦朧とした熱い思いを吹きかけた
少し年上のような気がした
一日に一度恋をして
二日に一度別れた
そして 恋の多くは釣り竿だった
暗い映画館の端の席で
あの日僕は熱にうなだれていて
二人はずっと緊張していて
濡れた貴女の傘に そう思った
あの日覚えているのは
終わりまで見ることのなかった
貴女の面影
戻る 編 削 Point(8)