朱夏のなぎさ/リリー
 
 サワサワと吹く松の風
 ふと目をあげたら
 海に迫る山肌に
 薄い雪

 尽きる事のない様に見える
 波のたゆたいは
 その胎内に微生物の死骸がまっしろく
 降りつづけるのを感じている

 風の日 泡立ってよろこび
 嵐の夜 大声で歓喜して
 しんしんと規則正しく降り続けたそれら死骸が
 空にまで舞い上がろうとする
 その天上に かつて呑みこんだ
 華やかな帆船のまぼろしすら見える
 そして静かな朝の訪れは
 柔らかに青ざめて伏す
 本能に生かされる精気、
 いのちのたゆたい
 
 朱夏のなぎさには
 時として狂った様に
 激しく溢れ流れる潮を感じるが
 これも皆、わたしなのだと思うと
 やさしい笑いがきこえる

 月がゆらり漂えば
 海の色 見つめて帰る足もとの
 砂浜だけが燻銀
 
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