砂の橋/リリー
 
 字をかく
 筆先の弾力が
 未知の世界に突入する

 柔らかくしなりながら
 墨は、
 濃く薄く線を描く
ヴァイブレーションに充ちた 
小さな愛の告白を
嘲笑うべきではなかった
冬のはじめから夜毎
風とほこりの中に
遠い鐘が鳴る

 飾りのない室
 庭に面した日本間の静けさの中で
 正座した 時間

 字を書く
 その字は 鐘声渡河


 
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