Sweet Thing。/田中宏輔
 
小柄なほうの女装の彼女は、隣に坐っている若そうな男のその耳元で話をしていたが、やがて、その男の股間に顔を埋めた。ぼくのいた場所からは、彼女が背を丸めて、彼女の座席の背もたれに姿が見えなくなったことから、そう想像しただけなのだが、そうであるに違いなかった。その若そうな男は、後ろから見ただけなので、正面側の顔はわからなかったが、彼がぼく好みの短髪で、若そうで、いかにもがっしりとした体つきをしていたことは、スクリーンの明かりからなぞることができる彼の頭の形や、垣間見える横顔の一部や、首とか肩とか上腕部とかいったものの輪郭や質感などから想像できた。ほかに五人の観客がいたが、どれも中年か老人で、ぼくがいける
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