渾名/soft_machine
 
 はじめての晩餐は
 邑に訪れたちいさな食堂で
 私たちのざる蕎麦をお月夜に見立てる
 ふるぼけた小卓でやおら啜れば
 コップには光る泉も噴水もあって
 おばちゃんのコロッケ
 箸おきに触れほっくり割れる

 主賓の誕生秘話について記された
 八つの小部屋で畏まっている美料理も
 適量に対する主観の相違から
 みなの懐具合にまで配慮されており
 私も誇らしく思うよ
 おばちゃん
 〆はラーメンね

 山隘の朝は恐ろしいほどゆっくりやってきて
 光と陰が織りなす層の果にある
 幼かった私は色づく花を採る
 新芽を磨きまぜ合わせて干す
 指を餌に疑わせ
 川への坂を下るのだ
 お不動さんの杣道で
 捕まえた蛇を投げあげ
 今の私がすくう素焼の皿を見ている  

 そんな不断の努力を伴う食なのだ
 朝から鳥の通り道に網をかすめ
 獣のねぐらごと山を撃つ
 血を抜き皮を剥ぎ骨をぶら下げ
 感謝を忘れずに笑おうと思う
 私の渾名はめん類
 あしたはきっとうどんだと思う




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