オリオン航海誌(2)/嘉野千尋
 


  *島の魔女

  「だってわたしは魔女だもの」
   赤い唇を歪めて笑った魔女に、
   オリオンは硝子壜を差し出したまま俯いた。
   魔女はしばらくその頑なな様子を見つめていたが、
  「でもいいわ。受け取ってあげる」
   最後にはそう呟いて、差し出された硝子壜を受け取った。
   魔女はそっと屈むと、足元の砂を硝子壜の中に入れ、
   何事かを呟いて何度か壜を軽く振った。
   その度に硝子壜の中で、小さな音を立てて光が弾ける。
   硝子壜が光で一杯になると、
   魔女は葡萄酒を呷るようにして、硝子壜の中の光を一口飲んだ。
  「持って行きなさい。きっとあなたの役に立つわ」
   魔女が差し出した硝子壜には、まだ淡く輝く光が残っている。
  「けれど、わたしは」
  「いいから、持って行くのよ。魔女からの贈り物よ」
   星のように輝く魔女の瞳をじっと見つめて、
   オリオンは問いかけた。
  「貴女の名は」
   赤い唇が、月の形を刻む。
  「イオ」




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