日記(日々)/岡部淳太郎
頭上から日々がのんべんだらりと垂れてきて
道の上に寝そべるので
そいつをよけながら歩いた
ところが日々は うねうねと気持ち悪い動きで
こちらの脚にまとわりつこうとするので転びそうになる
俺は日々の動きをかわすのにせいいっぱいだ
これではとても 歩いて目的地になどたどりつけそうもない
周囲を見回すと 人々が同じように
それぞれに固有の日々をよけながら歩いていて
それはまるで 優雅に踊っているかのようだ
見上げると 日々は空とつながっていて
ゆらゆらと揺れている
それぞれの頭上に
用意された日々が垂れてくるのだ
そのくねくねした動きの
なんと気持ち悪いこと
目指す目的地の向こうをとおく見つめると
そこにも同じように日々が空から垂れて 揺れていた
俺はそれを確認すると思わず吐いた
日々は俺の吐瀉物に汚れると動きを止めた
俺は日々が覆う道の上に倒れて寝転がり
日々の包みこむようなぬくもりを感じた
そしてこんな時にだけ優しくするんじゃないと
毒づき始めていたのだ
(二〇二四年六月)
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