何もない海/soft_machine
 
 行っても何もないだろうと考え
 また海に来た
 あかるい水平線が拡がって見えたが
 写真を一枚も撮らなかった
 そんな今の、何もない自分

 疾駆するボートに繋がれたロープが
 人の群を曳いている
 割れた雲と水煙がゆっくりと絡み合い
 水底をまだらに彩る
 そんな気分、何もない自分

 蟹の手だろうか
 規則的な風紋があり
 泣ける大人は幸いらしいので
 もごりもごりと口の中で
 なぐさめられ
 べければなりと唱える
 となりのベンチでついさっきまで
 泣いていた筈の赤んぼうが
 ご覧、もう笑っている

 少しだけあった
 けれど一瞬で消えてしまった何か
 母子をつつむ光の繭
 軽やかに、砂浜を転がっている




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