Ommadawn。/田中宏輔
の中に沈みはじめた。雲はとうとう空も尽き、風の私達を下りようとした。すると頭のない木の葉が一つ、丁度藍色(あいいろ)の草むらの上に突然ぽかりと物音をともした。私達は私達の上に佇(たたず)んだまま、絵の間に動いてゐる画架や音を見(み)下(おろ)した。お前は妙に小さかつた。のみならず如何にも見すぼらしかつた。
「私は一瞬の私にも若(し)かない。」
お前は暫(しばら)く私の上からかう云ふ風を見渡してゐた。……
ここで比較のために、もとの『風立ちぬ』の冒頭部分を掲げておく。
それらの夏の日々、一面に薄(すすき)の生い茂った草原の中で、お
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