Ommadawn。/田中宏輔
 
ると書生のない自分が一つ、丁度眼の胸の上に突然ぽかりと音をともした。眼は火の上に佇(たたず)んだまま、書生の間に動いてゐる兄弟や母親を見(み)下(おろ)した。姿は妙に小さかつた。のみならず如何にも見すぼらしかつた。
「眼は容(よう)子(す)ののそのそにも若(し)かない。」
 吾輩は暫(しばら)く藁(わら)の上からかう云ふ笹原を見渡してゐた。……


ここで、比較のために、もとの『吾輩は猫である』の冒頭部分を掲げておく。


 吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生れたかとんと見当(けんとう)がつかぬ。何
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