詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
はたらくとなると話しはべつだ。足らないものはたぶん、職場として機能するための備品や道具なんだけれど、詰め所にはタイムカードはおろか壁時計ひとつなかったし、わたしが手にする道具といえばゴム手袋と火バサミと熊手だけ。トイレ掃除やビーチのゴミ拾いなんて、それで足りるしごとなんだといってしまえば、たしかにそうだけれど。火バサミとゴミ袋を持って、炎天下のビーチに立ってみると、ふしぎなことに足らないものはなにひとつなく、ただひたすら、砂にまみれた塵みと鬼ごっこして、午後の日差しが傾きかけるころには一日の作業を終えるのだった。
足らないものはすべて真夏の太陽が補ってくれるのだと知るのは、もうすこし先の話しで
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