種/夏井椋也
暗渠の遊歩道で
綺麗なタチアオイを見つけ
立ち止まる
>今日が見頃みたいだよね
シャッターにかけた指が止まる
驚いて振り返ると
柔らかな眼差しの老人が立っていた
>実はこの花はね大陸からやってきたんだよ
>戦争が終わって中国からの引き揚げの最中に
>私の親父がこの花が一面に咲いている様子に感動して
>零れかけた種をそっとポケットに入れて帰ってきたんだ
>帰国してから鉢に植えるとすぐに根づいて
>その種がここに落ちて増えたんだよ
>ほお、そうだったんですか
改めてタチアオイの根元を見ると
暗渠を覆っているアスファルトの僅かな隙間から
何本も
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