炎彩画/塔野夏子
 
チューブから絞り出されるのは 炎

いくつもの炎がのったパレットから
その人は筆に炎をとり 絵を描く
パレットはいくつもの炎をのせながら
焦げることもない
筆もまた
炎をのせられたキャンヴァスもまた

キャンヴァスにのせられた炎は
筆の描いたかたちのままで
そこで静かに炎えつづける

筆が炎を足してゆくごとに
美しくなりながら
完成に近づいてゆくその絵

最後の筆が走った
と見るまに
大きな炎があらわれ
瞬時に消える
キャンヴァス パレット 絵具箱
そして描いていた人もろともに

あとには炎えかすひとつ残らずに

その絵が何を描いていたのか
誰の記憶にも残さずに


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