出発/たもつ
 

横断歩道の真中で
持ち主を失った目覚し時計が鳴っている
この世のどこかにはそんな交差点があって
生きている人間は普通に呼吸しながら
もう生きていけない人間に
静かな止めを刺しているんだろう
人は人の悲しみを背負うことなどできない
一足の靴にまつわる幸せな嘘が書き連ねられた
紙ナプキンをたたみ
富沢さんは
国際空港から発つ



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