ポケットの中の薄い板/佐々宝砂
 
遠ざかる星々に追いつこうとして
ポケットの中の薄い板が
震えてうめく

きらめくきつね雨のまひる
広場を歩けば
宝石がふってくる

こどもたちは争って宝石を拾い
笑いさざめきながらそれを口に入れる
私はただ見ている
空から宝石がふるのはなぜだろう
なぜだろうと訝しみながら

それからかわいいセーラー服のAIに挨拶して
ユリノキ通りのお店に入り
マルメロのジャムを一瓶ちょうだいと
微笑んでみせるわたしの頬に

落ちてくる紫外線宇宙線なんとか線
そろそろ義体化するべきだねとため息ついて
お金を払う
もちろん電子マネーで

水素エネルギーはまだ実用化されないので
ガソリン車に石油燃料を入れて
国道を走る

確かに二十一世紀を生きている
クローンも
AIも
生きているこの時空で

銀河の果てにこの声が届くまで
わたしは生きていられないけれど

それでも王国の鍵はここにあると
数千の言語と百億をこえる物語に繋がるはずの
ポケットの中の薄い板にそっと触れる
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