天国のない島/AB(なかほど)
 
 でも、本当の天国に行ったけどね」
 仕上げに
 頬をさすった手でクロスを切った


 譲治は
 生まれた時には「George」であって
 「譲治」ではなく
 けれど
 大人になった譲治には
 パパの言った天国の意味も
 母ちゃんの言った天国の意味も
 心で感じることはできずに
 ただ
 〆に結んだ草を見つめて
 空から聞こえてくる
 お婆のつぶやくような
 いくつものおまじないの声に
 耳を澄ませていた



 * チチンプイプイのようなおまじない
 ** 火の神を祀る棚
 *** ずっと頑丈で
 **** 泣いている童は耳グスグス、『耳切り坊主』の一節
 ***** 魔よけ、お守りのようなもの、
     夜出歩くときに身に付けた。


  
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